CPUの熱をCPUクーラーへと伝えるのに必要なのがサーマルグリス。 サーマルグリスは一般的にシリコンで作られていますが、製品によってはダイヤモンドや銀などが配合されており、多かれ少なかれ製品毎で熱伝導率が異なり、それがCPUの冷却性能に影響を与えます。 そして、さらに熱伝導率が高い製品として、液体金属の
Liquid PROなどが知られていますが、その性能ゆえになのか、上級者向けのクセモノとしても知られています。
そしてある日、
Liquid MetalPad (
本家) なるものを手に入れました。 製品自体は以前からあるのでご存じの人も多いかと思いますが、先日、日本橋の某店にて予備のグリスを物色していたところ、店員の某Nツネ氏にオススメされましてですね、気がついたらレジに立っていたという感じです。 (写真はすべてクリックで拡大)

Liquid MetalPadは金属100%のシート状で、Liquid PROに比べて導入の敷居が低いのが最も大きな特徴でしょう。 さらに、Liquid PROはアルミを侵食するため、ベース部分がアルミのクーラーには使用できませんが、Liquid MetalPadはアルミを侵食しないという特徴も持っています。 そして126W/mkという、Liquid PROの82W/mkの約1.5倍にもなる熱伝導率。 嘘か誠か、いざ試してみます。

キット内容です。 Liquid MetalPadが3枚と、使用済みパッドを除去するためのクリーニングキットです。

Liquid MetalPad本体です。 非常に薄いです。 厚みは計測していませんが、見たり触ったりした感覚だと、アルミホイルや新聞紙よりもはるかに薄い印象です。 それでは、今回のテスト環境を紹介します。
・AMD Ryzen 7 1700@3.6GHz
・MSI X370 GAMING PRO CARBON
・Thermalright Macho 120 SBM
・CPUファン - Ainex (akasa) AK-FN093
・Thermaltake Core V31 CA-1C8-00M1WN-00
・ケース付属ファン×2
・(ファンは3基すべて700rpm前後で固定)
・計測方法 - Prime95を約10分弱
・室温 - 32℃

まずは、Vcoreを今までのAuto (1.18V前後) を1.3Vに昇圧した以外、今までの環境そのままでPrime95を回しました。 本来は、比較用に条件等を完全に合わせる必要があったのですが、その作業をすっかり忘れてしまいました (後述の2回目のテストで条件を合わせています)。 ちなみに、グラフの下限は35℃、上限は90℃です。 使用したグリスは
Ainex JP-DX1、ダイヤモンドを配合した熱伝導率16W/mkの製品で、比較的高性能の部類に入るかと思います。 なお、このテストでの最高温度は約85℃でした。
では、いざ、Liquid MetalPadに交換します。

グリスを除去し、Liquid MetalPadを乗せます。 製品サイズは38x38mmで、Ryzenのヒートスプレッダとほぼ同じサイズになるため、カットする等の加工は不要ですが、ヒートスプレッダの角に丸みがついているので、パッドの四隅を念のため少しだけカットしています。

パーツをすべて装着、果たして結果は…?!
このLiquid MetalPadは固形の金属シートですが、58℃で溶けて液化し、そこからが本領発揮となるので、一度熱を加えて溶かす必要があります (導電性があるので、溶け出した金属が他のパーツに接触しないよう注意)。 RyzenのCPU温度は、ダイとヒートスプレッダの接合面の温度を表示していることから、ヒートスプレッダ表面 (パッドの温度) とは大きな差がないと思うので、58℃+α程度の熱があれば溶けるのではないかと思われますが、やはり確実に溶かすため、いきなりPrime95を回すことにします。
そして、システムを起動したところ、起動直後で70℃を示し、アイドルでも50℃台までしか下がりません。 溶けていない間はこんなもんなんだろうか…そう思いながらPrime95を回すと、一気に90℃を超え、95℃に達してしまいました。 際限なく温度が上がる気配だったので、Prime95は即中止し、OCCTを使って実行スレッド数を制限してみました。 結果、4スレッド実行で、ようやく85℃前後で安定するように。 とりあえず10分放置し、溶けるのを待ちます。
…10分後、アイドル時の温度はやはり高く、負荷時の温度も高いままです。 おかしい…そう思いながら、高負荷中にヒートシンクに触れると…ぬるい! 何らかの理由により、CPUの熱がヒートシンクに伝わっていないのを確信しました。

で、取り外した結果がこちら。 ごく一部分で溶けたような形跡があるものの、大半がそのままです。 溶けていない部分をはがすと、その様子がよく分かります。 さて、こうなった原因はどこにあるのか?!

原因判明。 これです。 CPUとヒートシンクの間に大きな隙間があります。 四つ角だけで接触しているような感じです。 つまり、歪んでるわけですね。 今まで問題なく冷えていたのは、グリスをやや厚めに塗っていたことが幸いしていたのだと思います。 高性能クーラーつけてるのに冷えないという人、こういう事例は割と多いと思うので、確かめてみるといいと思います。

というわけでですね、久々にやりました。 平滑化。 削り方が荒いのは気にしないでくださいw 完全ではありませんが、かなりましになっています。 写真をご覧いただいた通り、CPUとクーラーの両方をやすりがけしていますが、CPU側は思ったほど歪んでおらず、クーラーの方が歪んでいたようです (Thermalrightは自身で前例あり)。
というわけで、改めてテストの仕切り直しです。 グリスは従来より薄く塗り、CPUのVcoreを1.35Vに、全ファンの回転数を温度にかかわらず700rpm前後に固定します。


左がJP-DX1、右がLiquid MetalPadです。 まず左にご注目。 最大温度は約83℃でした。 冒頭に行ったテストでは最大約85℃で、そのときよりも発熱しやすい条件であるにもかかわらず、平滑化後で2℃下がりました。 同条件であれば、もっとその差は広がっていたと思います。 そしてLiquid MetalPadに交換後、さらに2℃前後下がりました。 ファンの回転数を上げるなど、条件を変えてやればもっと効果は出ているのかもしれませんが、この条件下では、Liquid MetalPadに交換した恩恵は少ないようです。

両者のグラフを重ねてみました。 若干ながら、全体的に下がっているのが分かります。
というわけで今回試したLiquid MetalPad。 ちょっと脱線しましたが、製品自体がかなり薄いので、CPUとヒートシンクが密着していないと逆効果になってしまうのはお分かりいただけたかと思います。 これからLiquid MetalPadやLiquid PROを試そうとしている人、そして、新たにCPUクーラーを買おうとしている人は、使用前に是非チェックしてみてはどうでしょうか。
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